Discography


3rd   ≪レコード芸術 特選盤≫ 

 

モーツァルト:ピアノ・ソナタ 変ロ長調

       KV.570

ブラームス:8つのピアノ小品 Op.76

ショパン:バルカローレ Op.60

               ポロネーズ《幻想》Op.61

 

録音 :2017年11月27〜29日 

          天竜壬生ホール

Piano :  YAMAHA Concert Grand Piano

                                                 (CFX)

CLA-1004     ¥2500(税別)

 

 

『レコード芸術』2019年10月号 特選盤      
 推薦【濱田 滋郎】
一言で言うなら、いずれもが「味わいの尽きない曲」、それぞれの作曲家が「心を傾けての作品」であり、この人から聴けることに、あらかじめ喜びを覚える楽曲ばかりである。モーツァルトのK.570のソナタは、第一楽章の両主題が同じ旋律、と言う奇策に出ながら、却ってそこに汲めども尽きぬニュアンスの美をかもし出す。ブラームスの作品76は、含まれる〈カプリチオ〉〈間奏曲〉の数々に、ピアノ音楽史上かつてなかった種類の細やかな意匠をきらめかせる。そしてショパンの、最もショパンらしい後期の傑作2つ。そのすべてに、田村明子は、彼女の流儀で、ふさわしい姿を与える。とりわけ、14分43秒をかけた《幻想ポロネーズ》の味わい深さは、一流のものだ。
 
 推薦【那須田 務】
どの曲もテンポを揺らすが内面の奥深くからの歌を感じさせるので説得力がある。「今その時」を味わうような即興的な趣と余韻、濃密な味わいがある。ショパンの「舟唄」は第一主題が遠くからの木霊のように聴こえ、全体にまったりとしたメランコリックな気分が支配している。これほど個性的な演奏を聴かせる人もそうはいない。  
 
『ショパン』2019年11月号 【道下 京子】
彼女の演奏を聴いていると、作曲家の生きた時代に身を置いているかのような感覚に陥る。ゆったりと流れる時間のなかで、作品に対して真摯に向き合い、作曲家の声に静かに耳を傾ける。モーツァルトでは繊細なタッチから情感に満ちあふれた音楽を生み出す。ブラームスでは、作曲家のナイーヴな感性に温かい眼差しを向けている。また、ショパンの自然なルバートは実に魅力だ。作曲家や作品への共感を深く感じさせる演奏!

 

2nd    ≪レコード芸術 準特選盤≫ 

リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178

シューベルト:楽興の時 D.780

録音 :2014年12月1〜3日 天竜壬生ホール

Piano :  YAMAHA Concert Grand Piano (CFX)

CLA-1003     ¥2500(税別)

 

 

 

『レコード芸術』2015年5月号 準特選盤  

 推薦[那須田

田村明子は2011年にベートーヴェンのソナタ第30番とシューマンの<幻想曲>等でCDデビュー。借り物でないオリジナルな「歌」が好ましく、当欄に「間違いなく、心の底で感じる歌を歌える、数少ないピアニスト」と書いた。それは今度のアルバムにもいえる。とくに大作リストのソナタではさらにスケールの大きなピアニズムが示され、頑強な体躯の男性ピアニストのようなパワーと迫力である。展開部までの音楽の運び方が見事だし、アレグロ・エネルジーコは高揚感とともにスピードが乗って実にスリリング。グランディオーソの第2主題も威風堂々。再現部の前のリリカルな美しさ、その後のフーガ風の箇所は緊迫感に満ち、再現部から最後の静けさへの推移では見事に時間と空間の質を変えてみせる。とにかく聴かせる。中身のぎっしりと詰まった魅力的な音だなと思ってブックレットを見たら、ヤマハのCFXだった。シューベルトの≪楽興の時≫もすばらしい。第1番冒頭の主題のアゴーギクが独特。自由な歌い回しで時が止まったよう。第2番はさらにテンポを遅くし、しばしその場に留まり、音と響きの余韻が心に刻み込まれる。形式ではなく、その瞬間の霊感や響きとその余韻で音楽を作るのは、今月のフレイや高橋アキのシューベルトに通じるもの。といって15年ほど前のアファナシエフほど極端ではない。今後こういうシューベルトがもっと増えてくるだろう

                     

〜ライナーノーツより〜  道下 京子 ( 音楽評論家 )

田村さんは作品を深く読み解き、その演奏は音楽と一体化するほどに濃密な表現を特徴とする。それに加え、音楽におけるストーリーの構築に非常に優れた素質をもっている。シューベルトとリストの演奏では、そうした彼女の演奏スタイルがすぐれて貢献している。一音一音に魂を込め、徹底して内面的な表現をめざしたシューベルトと、壮大で気高い叙情詩を見事に紡ぎ出したリストである。


 

1st   《レコード芸術 推薦盤》

 

ベートーヴェン:

ピアノ・ソナタ第13番  Op.27-1   

ピアノ・ソナタ第30番  Op.109

シューマン:

色とりどりの小品 Op.99より                       

幻想曲 Op.17

録音 :2011年4月19〜21日 天竜壬生ホール

Piano :  YAMAHA Concert Grand Piano (CFX)

CLA-1001-2      ¥2800(税込)   

 

『レコード芸術』2011年9月号より 

 準推薦[濱田 滋郎 

彼女は、この2枚組ディスクに寄せた「まえがき」で、かつて5年間を過ごしたドイツの思い出を語り、「森を歩く」ことが好きな人々との魂のふれあいについて述べている。そして、実人生の不幸にさいなまされながら、この精神を自由に解放し「力強く、のびやかであたたかい」音楽を生み出し得たベートーヴェン、シューマンの世界に一歩でも近づきたい、との願いを洩らす。

 つねづねそう記させて頂くように、私は月評のためディスクを聴くにあたり、先入観を避けるため、事前にブックレットを読むことはしない。右の文もベートーヴェン、シューマン各一枚ずつのCDを聴き終えてから読んだ次第なのだが、CDの演奏内容に照らしてたいそうよく納得が行った。自身の言葉どおり、これは両作曲家と心から誠実に向かい合っての成果である。何の衒いもなく、純な心情と感性をもって譜面に接した演奏だが、それ故にこそ、作品に込められた作曲者の思いを的確にとらえ、映し出すことを得ている。とりわけベートーヴェンにおいて、共感の度はたいへん深く、こまやかであると感じられる。作品27−1の幻想的ソナタは自在に移り変わる部分の表情を生命とする楽曲だが、田村明子は、すでに触れたとおり、手練手管を弄ぶよりも、ただ率直に心を開いてベートーヴェンからの問いかけを受け止めるといった趣をもって、作品の真髄にまで迫り得ている。作品109のさらに奥深い世界を引き表すにあたっても、彼女のそうしたありかたは、きわめて美しく、しかも真摯に織りなされた音の綾を生む。シューマンのほうは作品99〈色とりどりの作品〉からの抜粋(初めの2つのブロック、全8曲)そして〈幻想曲〉ハ長調を採り上げており、これらも同じように率直な、心を込めての奏楽である。しかし、この人が己の感性を傾注してのこまやかな彫逐ぶりおいては、ベートーヴェンのほうが勝ると筆者は聴く。